2017年11月29日水曜日

rawの線形変換と色再現

 一般的なカメラでは正確な色は出せないがRawデータに一次変換を行いどの程度色が合わせられるのかを検証した。

colorCheckerの撮影とraw現像を行い、そこからXYZ色空間への変換マトリクスを算出し、この変換マトリクスを適用して色を正しいものに近づけた。
これをカメラごとに行い差がどれだけあるかを確認した。
  1. カラーチェッカーの撮影とRaw現像
    現像時に露光量とWBを合わせ、カラープロファイルは無効にする(Raw空間の現像)
  2. Raw_to_XYZマトリクス作成
    Raw空間のRGB値がリファレンスのXYZ色空間にフィットするようなマトリクスを作成
  3. マトリクス適用とsRGB変換
    XYZ空間への変換が出来たら任意の色空間への変換は容易となる。今回はsRGBに変換した
raw現像はRawTherapeeを使用
マトリクスの作成と適用はpythonとOpenCVで作成

RGB色空間とXYZ色空間について
  • 下図の点群は人が認識可能な物体色を表している
  • RGB色空間では表せない物体色がある。立方体からはみ出た点がそれのこと
  • sRGB色空間を立方体で表したが、はみ出た点は1.0を超えていたりマイナスにいる
  • X軸、Y軸、Z軸それぞれの軸を傾けたり伸縮させたりして空間をゆがませ、はみ出ていた物体色が立方体に収まるようにする。この変換のことをRGBからXYZに変換すると言い、3x3マトリクスを掛けることで変換できる
  • ついでにXYZのほかにxyzやxyYへの変換イメージも記載した
 

Luther-Ives条件
本来はセンサーにLuther-Ives条件が満たされたものでないと色は一致しない。
これは人の色の感じ方と同じになるようなフィルタをカメラに備える必要があるということでかなり難しいみたい。(たぶんモニタのキャリブレーションの計測器とかがそうだと思う)

正確な色が出せるカメラ
ここによると価格は100万以上とのこと
 4Gamer.net ― [SIGGRAPH]「Emerging Technologies」展示セクションレポート(3) 液晶や有機ELの先にある「未来のディスプレイ」とは?

colorCheckerPassportを使ったカメラキャリブレーションについて

今回は使わないが検証した。
colorCheckerのクラシックターゲットの写真(.dng)をドラッグするだけで、24個のパッチを自動認識してdcpファイルを作ってくれるもの。
dcpファイルとはDNG Camera Profileの略。
dcpはLightRoomやRawTherapeeでも読み込める

dcpプロファイルの中はマトリクスのほかにテーブルを持つことも可能。
このツールで作られたdcpの中身を見るとマトリクス以外に6*6*3のHSVの補正テーブルが存在していた。

カメラごとにdcpの作成を行い、RawTherapeeでdcpを適用しsRGBで現像したもの
左から6D、α6300、K52s
   
思ったよりばらついている

dcpについて詳細は Color Management/jp - RawPedia
dcpToolを使えばdcpの中を見たり直接編集できる Lightroomのカメラプロファイルを偽装して増やす方法

線形変換だけにしたい理由

LUTを含めたキャリブレーションは一枚の絵としては問題ないが、露出の異なる複数の写真を合成するようなHDR現像等では色が綺麗につながらなくなる可能性があると思う。
LUTは明るさや色を3次元で細かく分割してそれらが別々の向きに補正をしていることから、ところどころ空間をゆがめて補正していると考えられる。
例えば、ある色を2倍の明るさで撮影した場合2倍のRGB値になるはずがそうならない可能性がある。これはLUTにより線形性が崩れるため。

カメラRaw色空間の現像

比較したカメラは以下
  • SONY ILCE6300 + sony E PZ16-50mm f/3.5-5.6 OSS
  • Canon EOS 6D + Canon EF50mm f/1.8 STM
  • PENTAX K-5IIs + Tamron AF 17-50mm f/2.8 XR Di-II LD(Model A16)
撮影条件
  • 午後の日陰。色温度は9000ケルビンくらいはありそう
  • 中心付近に小さめに写るように撮影(周辺減光の影響を避けるため)
  • 白が現像時に白飛びしていないように気を付けて撮影
現像(RawTherapee)

 どの現像ソフトでもよいけどニュートラルな状態にすることが重要
  • 処理プロファイルをニュートラル設定にする
  • ホワイトバランスを合わせる(下段右から3個目をスポイトでクリック)
  • 露光量を合わせる。下段のグレーのあかるさが理論値になるようにする
  • 場合によっては黒レベルを調整。レンズによってはハレーションが起きたりして黒浮きすることもあるかも。なぜか6Dが本来より少し黒が締まっていたので黒レベルを少しだけマイナスにした
  • プロファイルを無しにする。デフォで使われているプロファイルを外すこと。ホワイトバランスと露光調整以外の余計な色補正をさせないため
  • 作業プロファイルと出力プロファイルはともにsRGB。余計なデータ補正や見た目の補正をさせないため
 こんな感じに現像される。プロファイル無しのrawデータのため低コントラスト且つ低彩度な見え方になる
 
 RAW現像結果の色。左から6D、α6300、K5IIs
    

マトリクス適用

理想的なカメラなら任意の3点を一致させる変換マトリクスを適用すると、他の色も一致することになる。
また、光源が変わるとたとえホワイトバランスを合わせたとはいえ、変換マトリクスは違うものになる。

変換先はXYZ色空間とする。後から他の色空間への変換が容易になるため。

canon6Dの日陰撮影のRawデータで検証
RawデータのRGBをYu'v'空間にプロットした
  • 色付きの24個のポイントがRaw現像後の位置
  • その中で赤、青、緑、を大きな丸で囲った
  • 小さな点がリファレンスの位置(リファレンスはbeforeNov2014_D65とした)
  • グレーの三角形はsRGB領域
 Yu'v'を真上から見たもの (u'v'平面)
 

横のほうから見たもの (高さは視感反射率Yとした。明るさのこと)
  

赤、青、緑の3色が一致する変換マトリクスを適用(canon6D)

  • 3つの未知数を持つ連立方程式を解いてマトリクスを適用
  • 3点が完全に一致していることがわかる
  • 全体的にリファレンスに近いが黄色やオレンジが大きくずれている
   

変換マトリクスと変換後の色差DE2000
toXYZ_Mat
[ 0.89835441 -0.17661714  0.21551421]
[ 0.31729395  0.82602992 -0.15964913]
[ 0.01397038 -0.34370169  1.39592   ]
ΔE00
[ 9.38996824e-01  1.08310822e+00  7.85876988e-01  2.41646509e+00   1.31960531e+00  9.10994244e-01]
[ 4.03237985e+00  7.20378675e-01  5.64588810e-01  1.43603546e+00   2.07556347e+00  4.43399649e+00]
[ 3.02228672e-06  1.39560170e-06  2.91851177e-07  3.69368659e+00   1.46170962e+00  3.78619604e+00]
[ 4.60377270e+00  1.54580962e+00  5.78651985e-01  2.43207497e+00   1.50993729e+00  3.91870255e+00]
ΔE00_ave :  1.84368897906

調整した変換マトリクスを適用(canon6D)

  • 3機種の傾向も考慮して手動で微調整した
    ターゲット3点のYu'v'の座標を少しずらして試行錯誤した。
    できればL*a*b*やL*u*v*で誤差が最小になるような計算ができればよいのだが難しそうなのでやめた
  • オレンジや黄色が改善された
  
変換マトリクスと変換後の色差DE2000
toXYZ_Mat
[ 0.86985374 -0.11609804  0.20381344]
[ 0.30761041  0.9124425  -0.20011322]
[ 0.00506413 -0.30798665  1.41722922]
ΔE00
[ 1.06833092  1.2581274   0.36424489  0.86918975  0.90505062  0.79224334]
[ 2.06356919  0.1082458   0.48136401  1.25677744  0.88228887  2.12901974]
[ 1.33289029  1.37997964  0.89330811  1.25032554  1.17798868  3.62548714]
[ 0.99368582  1.6426019   2.47002297  0.43946784  1.44493901  2.8286171 ]
ΔE00_ave :  1.31907358332

調整した変換マトリクスを適用(α6300)

α6300での結果
  
toXYZ_Mat
[ 0.82079626  0.0782833   0.03976358]
[ 0.27049007  1.04623496 -0.31998426]
[ 0.04249192 -0.32674336  1.3431005 ]
ΔE00
[ 1.10702662  2.58816693  1.00386873  0.53055415  0.95530419  0.23357595]
[ 1.62771004  0.94036273  1.26947082  1.1245529   1.43463378  1.90325408]
[ 0.72444967  1.07176911  1.03303373  2.62862239  0.86314914  1.73175871]
[ 3.30977831  0.72365459  1.21562373  1.59332979  0.91186525  0.43170746]
ΔE00_ave :  1.28988428371

調整した変換マトリクスを適用(k5Ⅱs)

K5Ⅱsでの結果
  
toXYZ_Mat
[ 0.72176424  0.18613429  0.04197106]
[ 0.26178377  1.05924103 -0.31321469]
[ 0.00864767 -0.31876012  1.44011637]
ΔE00
[ 1.50517607  3.43638754  0.76003805  0.90319897  1.4062553   1.24471321]
[ 2.04390155  0.64819104  1.2938633   2.08423349  1.72452133  2.82271584]
[ 1.29717256  1.56150571  2.03697617  3.38381743  0.46752731  2.11843823]
[ 0.87083697  1.49841186  1.92799113  0.73928252  1.03020498  1.95780584]
ΔE00_ave :  1.61513193227


カラーチェッカーの比較

左からリファレンス、6D、α6300、K5Ⅱs
    
  •  多少ばらつきはあるがなぜかcolorCheckerPassportのキャリブレーションより結果はよい。
  •  マトリクスの影響で下段のグレーに多少色のばらつきが発生

写真で比較

それぞれホワイトバランスを合わせてRaw現像したものに対して、上記マトリクスを適用してからsRGBに変換したもの

左から6D、α6300、K5Ⅱs
  
  
多少ばらつきはあるがこんなものかもしれない

現像時に3機種のホワイトバランスを合わせているためある程度ばらつきは抑えられているが、ホワイトバランスを固定して、光源の色を重視した現像をする場合はもっとばらついてしまう

dxomarkにも変換マトリクスが載っている

今回はマトリクスを自前で用意したが、ここのを使用してもいいかも。

dxomark.comというカメラの機種ごとの評価や詳細なデータを公開しているすごいところがある。
ここに記載されてるマトリクスはRawからsRGBへの変換。光源はたぶんD50
下記ページのColorResponseタブに記載されている

Canon EOS 6D : Measurements - DxOMark
Raw_to_sRGB_Mat
[ 2.29 -1.44  0.15]
[-0.27  1.63 -0.36]
[ 0.05 -0.75  1.70]
これをXYZへの変換に直すと
Raw_to_XYZ_Mat
[ 0.85700156 -0.14641637  0.23988479]
[ 0.29753848  0.80531788 -0.10285635]
[ 0.059608   -0.54628587  1.57550788]
Raw_to_sRGB_Mat
[ 2.04 -0.91 -0.13]
[-0.24  1.65 -0.41]
[ 0.06 -0.49  1.44]
これをXYZへの変換に直すと
Raw_to_XYZ_Mat
[ 0.76641911  0.12625081  0.05960444]
[ 0.26654659  0.95110304 -0.21692786]
[ 0.06785332 -0.286576    1.31705573]
Pentax K-5 IIs : Measurements - DxOMark
Raw_to_sRGB_Mat
[ 1.69 -0.57 -0.12]                    
[-0.14  1.49 -0.35]
[ 0.07 -0.49  1.43]
これをXYZへの変換に直すと
Raw_to_XYZ_Mat
[ 0.65962134  0.20927382  0.0833792 ]
[ 0.26434806  0.90898746 -0.17261375]
[ 0.0825087  -0.2990732   1.31489755]

XDOのマトリクスを使ってみたところ6Dに関しては日向で撮影したカラーチェッカーがいい感じになった
ΔE00_ave :  1.69791451803


α6300やk52sはそこまで一致はしなかった

参考

Nikon D610で同じような検証をしている。ΔE00平均は1.17となっている


de00色差を計算してくれる

エクセルスプレッドシートでde00色差を確認出来て途中計算の結果も見れる


0 件のコメント:

コメントを投稿